『お客さん私をからかっているんですか?』
彼女は明らかに不愉快そうな顔を私に向けた。
私は言った。
『初対面の貴女を何故私がからかわねばならないんですか?
生憎その根拠が私には見当たりませんが?』
『私が綺麗?貴方は何を根拠にそんな戯言を言っているんですか? 』
彼女は信じられないという表情で私を見た。
『私は余りオツムが高尚に出来ていないので見たままを述べたまで ですが?』
私は笑顔で返した。
『貴方は目がおかしいんですか?私の顔を見てどこが綺麗だと言う んですか?』
明らかに彼女は苛つきながら半ば睨むような目で私を見た。
『生憎両目とも⒉0で眼科でも正常と言われたばかりですけどね? 』
私は笑顔で返した。
『なら頭がおかしいんじゃないですかね』
彼女はやれやれと言った感じで両手を上げて天を仰いだ。
『生憎人様から頭がおかしいと言われている人が可笑しくない事を 証明する事を生業として二十年になります。もし私がおかしいとす るならばその方々の立場が有りませんね』
私は微動だにせず言葉を返した。
『見ての通り私は顔面神経麻痺で顔が醜く変形しています。此処ま ではっきり言わなければ解りませんか?』
彼女はとても哀しそうな目で私を見た。
『それで?私の目にはちっとも醜い顔には見えません。私の目には 心の美しさがお顔に現れていてとてもお美しいお顔立ちに見えます けどね。貴女を嘗て醜いとされた方々は心の目が曇っているか或い は目自体が空いていないんじゃないですかね?そんな屑共の戯言を 耳にされる事自体汚らわしい事ですし生産性がないと思いますけど ね』
私は真っ正面を向いて彼女にそう言い放った。
『この顔のお陰で私は虐めに遇い彼氏も出来ず就職だって叶わなか った。全てこの顔のせいなんです』
叫ぶように彼女は言い放った。
『本当にそうでしょうか?貴女はそれのせいにして全てを逃げてき ただけじゃないですか?それは貴女の魅力の一部でありはしても決 して欠点じゃない。それにメンタルアップを計ればそれの改善も可 能です』
『嘘、何処の病院に行っても治らなかった。もう一生私のこの顔は 元には戻らないんだわ』
彼女は遂に泣き出してしまった。
『では私が見事治して見せましょう。もしも治らなければ私を告訴 しても構わない。それで如何ですか?』
私は更に食い下がった。
『治る筈がない、治る筈がない…』
彼女は呪文のように同じ言葉を言い続けその場へ崩れ落ちてしまっ た…。
それから数ヶ月後…。
満面の笑みを称えた絶世の美女が私の目の前に立っていた。
その顔は喜色満面となり微塵の暗さも無くなって居た。
『先生、私今の私が信じられない。何処の医者に診て貰っても治ら ないと言われたのに先生と一生懸命セラピーを続けていて本当にこ んなになるなんて』
今や彼女の顔に悲壮感はなくあるのは希望に満ち溢れた笑顔だけだ った。
『それが本来の貴女の姿です。私はそれを貴女に見せたかったんで す。そして貴女の横にいる彼にもね』。
其処には長身のイケメン彼氏が恥ずかしそうに立っていた。
人は変われる、メンタルが変われば容姿も変わるのです。
それを彼女は自らの実体験で勝ち得たのです。
今彼女は同じ苦しみで苦しむ方々を救う仕事に就いて居ます。
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